読売新聞記事原稿(1)

読売新聞 2009年12月20日付
医療ルネサンス No.4987 アトピー性皮膚炎


読売新聞記事原稿(1)
(読売新聞社 掲載許可 無断転載複写禁止)

金沢大学皮膚科教授 竹原和彦さん
1979年東大医学部卒。同皮膚科講師などを経て94年から現職。著書「アトピービジネス」など。
アトピー性皮膚炎について,金沢大皮膚科教授の竹原和彦さんに聞きました。

—どんな病気ですか

かゆみを伴う湿疹が慢性的に繰り返します。手足や体,顔など左右両方に現れます。原因は十分解明されておらず,遺伝的な皮膚の性質,ダニやペットの毛などのアレルギー物質や,汗,ほこりによる刺激,ストレスなどの多くの要因の関与が指摘されています。

—どのように治療するのですか

治療の柱はステロイド(副腎皮質ホルモン)の塗り薬を用いて皮膚の炎症を抑えることです。免疫抑制剤のプロトピック(塗り薬)やネオーラル(飲み薬)も近年使われます。かゆみを抑える抗ヒスタミン薬なども補助的に使われます。

—ステロイドとは?

体の中の副腎から分泌されるホルモンのひとつで,炎症を抑える働きがあります。飲み薬や注射薬,塗り薬があり,多くの病気の治療に用いられています。アトピー性皮膚炎の治療では塗り薬を用い,私は飲み薬を使いません。

—副作用は?

塗り薬では,長期に使うと皮膚が薄くなったり,血管が拡張して赤く見えたりする副作用のほか,ニキビや水いぼなどの感染症が起こりやすくなることもあります。全身に作用がある飲み薬や注射薬における,顔が満月のように丸くなる(ムーンフェイス),骨が弱くなる(骨粗しょう症)などの副作用と,混同されることがよくあります。

—ステロイドに不安をもつ患者も多いようです

1990年代にはステロイドに批判的な報道も過熱し,副作用を恐れるあまり十分な量や塗り方をせず,悪化させる事例が増加しました。みんなの不安につけこんだ悪質な民間療法「アトピービジネス」が横行し,一部の皮膚科医が「脱ステロイド療法」を掲げるなど混乱を招きました。このため日本皮膚科学会はアトピービジネス被害を調査する委員会を設け,2000年に治療指針を作成しました。

—アトピービジネスの被害は今もあるのですか?

激減しているように思いますが,依然としてあります。患者も被害に遭わないように注意が必要です。

—今でも治療に悩む人は多いようです

2000年当時,金沢大病院にアトピー性皮膚炎で入院する患者の60%以上が民間療法や脱ステロイド療法による悪化が原因でした。しかし最近は普通に治療を受けていたにもかかわらず,ずるずる悪化した人が65%を占めます。ステロイド剤の適切な塗り方の指導を受けていないなど,医師とのコミュニケーション不足もあると考えられます。

—患者へのアドバイスをお願いします。

アトピー性皮膚炎は,しっかり治療すれば,普通の人と同じ生活を送ることが可能な病気です。諦めることなく,治療上の疑問点,ステロイドの使い方,やめる時期など納得がいくまで医師に質問してください。