読売新聞記事原稿(2)

読売新聞 2010年1月26日付
医療ルネサンス No.4763 かゆみの治療


読売新聞記事原稿(2)
(読売新聞社 掲載許可 無断転載複写禁止)

「こぶし大の広さには、薬は米粒1個分くらい。ちょん、ちょん、と皮膚にのせてちょっと延ばす」

ワイシャツの腕をまくり、ステロイド薬のチューブを手にした金沢大病院皮膚科教授の竹原和彦さんが、アトピー性皮膚炎の患者、家族を前に塗り方を実演してみせた。次に、「間違った例」として、ゴシゴシと擦り込むように塗ってみせると、覚えがあるのか、患者や家族からは「あっ」という笑い声が上がった。

アトピー性皮膚炎は、アレルギーなどが原因で、強いかゆみを伴う炎症が起きる。治療の基本はステロイドの塗り薬だが、「塗っているのに良くならない」と訴える患者も多いという。

竹原さんによると、そういった患者では、皮膚の炎症が治まっていないのに自己判断で治療を中止したり、「塗り方」に問題があったりする例が多い。ゴシゴシ擦り込むと薄くなり、十分な量の薬が行き渡らない。重症の割に弱めのステロイドを使っているせいで、効果が不十分な場合もある。このため、初回の診療では、薬の説明や塗り方の指導に時間をかける。

富山県の男性(31)は、20歳代半ばからアトピー性皮膚炎を発症、いくつもの病院に行ったが良くならなかった。全身がかゆく、仕事に集中できない。顔は赤く、背中はがさがさになった。

2009年8月、金沢大を受診。出された塗り薬は、どれも使った経験のある薬だったが、指導通りに塗り方を変えたところ、かゆみも減り、背中の症状も軽くなった。

ステロイドの塗り薬を長期に使うと、皮膚が薄くなったり、赤みが増したりするなどの副作用が生じる。このため、皮膚の薄い顔の部分にはステロイドではなく、免疫抑制剤の塗り薬、「プロトピック」(一般名タクロリムス)を主に用いる。使い始めは、強い刺激やかゆみがあるが、しばらく使うとほとんど感じなくなる。

成人の重症患者には、飲み薬の免疫抑制剤「ネオーラル」(同シクロスポリン)も08年、使えるようになった。塗り薬に比べ、効果は強いが、感染症にかかりやすいなどの全身的な副作用の心配がある。

竹原さんは「アトピー性皮膚炎は、適切に治療をすれば、塗り薬だけで周囲に気づかれない程度まで抑えることが可能。良い状態を保てばかゆみも大幅に軽減できる」と話している。